1987年 9月
酒 と 涙

  『夏の甲子園』がいつのまにか『甲子園の夏』にとってかわり、毎年夏には高校球児たちの汗と涙が、 多くの人々の感動を呼びおこす。試合に望んでの緊張したまなざし、リードされてしまう時の、もし かして敗北かという不安と悔しさ。そして応援席で声かれるまで応援する女子生徒の涙・涙。予選を 勝ち抜いて出場するだけでも大変な甲子園。ここまで勝ち上がるまでには懸命な練習を積み重ねて来 たに違いない。夏の甲子園には、一つのことに全力を集中する姿の美しさと、胸のすくような爽やかさがある。

  酒と涙と云々という歌があったが、人にとって酒と涙とはどことなく似たところがある。嬉しいとき にも酒、悲しいときにも酒だし、涙の流れるときもまた、悲しかったり嬉しかったり。最も酒の方は、 こうした感情に関係なく「飲んで飲まれて」というやからも多いが。

  人生いくつになっても自分自身のことは、まだまだ若いと思うもののようだが、だんだん年を重ね 『青春』とはほど遠い年齢になってくると、酒を飲む機会は増えるが、感動や感激によって涙を流す ということが激減するものだ。そして、他人のことより自分のことを重要に考えるのが一般的な価値観 となり、こうした傾向がますます「感激の涙」とはほど遠い生活となる。

  集中して取組む懸命な努力と対を成すのが「感激の涙」ではなかろうか。いくつになっても、そして、 どんな分野にも高校球児に負けない涙があるはずだと思うのだが・・・


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