1986年 4月
”不断給餌”

  飽食の時代と言われるほど、金を出せば食物が何でも手に入る時代である。しかし、十分に満たさ れてしまえば、欲望は逆にしぼんでしまう。小どもの三度三度の食事に、親が叱りながら食べさせ ている光景をよく見かける昨今である。そして、共稼ぎの親たちの知らない所で、○○オカキ、△ △エビセン等をほおばっているのが子どもたちの世界でもあるようだ。

  畜産用語に不断給餌というものがある。つまり朝から晩まで、いつでも食べたい時に食べられるだ けの餌が与えられているということだ。今日の厳しい畜産情勢の中では、いかに早く育てるかとい うことが基本として求められている。ところが、鶏の実験で、十羽入った鶏舎に5百グラムの餌を 与えた場合と、一羽ずつゲージに入った鶏に五十グラムの餌を与えた場合を比較すると、十羽まと まっているほうがはるかに早く餌を食べてしまうという。運動量の差もあるのだろうが、自分の持 分が決まっている場合よりも、個体差があって競争関係にあるほうが、餌が無くなってしまうとい う危機感からか、無中で食べてしまうということらしい。

  一昔前の時代には、おみやげにもらったお菓子等をたくさんの子どもが一度に手を出し、平等に分 けることが難しいほどであった。しかし今日では、小さい子に先に与えれば、必ずといっていいほ ど途中で投げ出すものである。時には、十分過ぎるほどの物が、自由に手に入るということの、有 害性について考えてみたい。


戻 る