1985年11月
新緑 and 紅葉

  新緑の萌える緑と寒さに忍ぶ紅葉の紅。日本の四季を色どる双壁である。今まさに紅葉のとき。 自然の色に魅せられて、東北地方等への紅葉旅行も盛んな昨今である。

  人間の感情は長い時間の中で、自分たちをとりまく自然環境に支配される。どこまで行っても つきることのない砂塵まう茶褐色の砂漠地帯。また、雪と氷に閉ざされた白銀の世界といわれ る極北地帯。こうした単調きわまりない色一色の自然にかこまれていると、人々の感情も荒くそ の起伏も激しいものがあるという。日本のように四季に恵まれ、自然の織り成すさまざまな色模 様にかこまれていると、自ら人の心もなごむものなのであろう。

  日本人はみんな同じ色のダークスーツを着て、コンクリート色の建物に囲まれ色彩感覚が鈍い。 とある外国人の評。都市化が進むということは、本当に自然の色にふれる機会を少なくするもの だ。道路端の木々は排気ガスのために黒ずみ、目に入るものはすべて人の手による作られた色の 世界があるばかり。

  ふと思い立ち近くのお寺を尋ねてみる。そこにあったのは黄と紅の織り成す自然界。身近にある 自然の作り出したあざやかな色に驚かされる。そして団地の片すみ等で、人知れずひっそりと紅 葉する雑木の一葉。そんな発見にも、普段思いもよらない感動をおぼえるものだ。万葉集より四季を詠む和歌。
  春は萌え夏は緑に紅の綵色に見ゆる秋の山かも


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