“映像化社会”という言葉が生まれてくるぐらいに、テレビに代表されるマス・メディアの発展は、ます
ますその多様化を深め、映像を通したコミュニケーションの拡大が指向されている今日である。こうした
映像化による活字ばなれが叫ばれてから久しいが、やはり、映像と文字とは異質の文化であり、文字には
想像によって自由な映像を作るという、すてがたい魅力のあるものだ。
四百年前、徳川家康という人物がいた。それまで長く続いた戦国時代に終止符をうち、新しい時代の礎を
築いた日本史上有数の人である。そして、人は時代によってつくられることの証明でもあるかのように、
この時代には信長、秀吉等の偉大な人物が同居している。
日本史上の大きな転換期の一つであるこの時代
を、家康という人物を主人公に、山岡荘八によって書かれた大河小説“徳川家康”は、戦後日本の多くの
読者を獲得し、今なお読者を魅了し続けている。そしておもしろいことに、三十代に最も多く読まれると
いう。「忍」を最大のモットーにした家康が理解されるのは、三十代なのかも知れない。
最近、NHKでこの作品を取り上げているのだが、その原作のスケールの大きさに比較し、なんともやる
せない不満を感じた人が多数あるのではないだろうか。三十代といえば晩酌にビールを飲みながらプロ野
球を見るのが一般的だが、たまにはじっくり活字に取り組んでみたいものだ。全二十六巻まさに読みごた
えあり!