1982年 5月
段取り八分

  春から夏にかけて海辺へ出かけ、自然(海)の雄大さをながめながらの潮干狩りは、その収穫の喜びとも合いまって、 本当に楽しいものだ。先日、そうしたことを夢に見ながら、家族連れで波崎海岸へと車を走らせた。トランクには手 ごろの熊手と大きなバケツ、そして種もみ用の網の袋を何枚も詰め込む。さらに、現場で一味楽しもうと、ガスのボ ンベと醤油まで用意しての出発。潮の状態を調べ、手に持ちきれないほどの収穫を期待して胸を躍らせる。

  十分な準備の後に進められたことが、時には全く予期しない結果を生むことは、誰もが時折経験することである。朝 の時間、子供達と一緒に出かける支度をすることは、思ったよりも時間のかかるものだ。そして例の交通渋滞。そう こうしているうちに、潮はだんだん満ちてくる。やっとたどり着いた時には、遠浅のはずの海岸を大きな波が押し寄 せていた。約一時間の波との戦いの結果、五コという信じられない収穫。その焼きたての貝のなんとも言えない味わい。 そして、帰りがけに、おみやげのはまぐりを買うみじめさ。

  「段取り八分」ということがよく言われる。計画や準備が十分ならば、仕事の八割は終わったようなものだという意 味らしい。確かに正論だと思うし、むしろ前段の準備の必要性を説くものであろう。しかし、後の二割の中に予期し ない伏兵のいることもあり、時には「とらぬ狸のなんとやら……。」となってしまうものだ。


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