1981年 7月
不 労 所 得

  「大地」という言葉のもつひびきは、“生命を育む豊かな自然の稔り”といった大きく、たくましいものだと思う。 この大地が「土地」になり、個人の所有物となったのはいつの頃からであろうか。そして最近では農村においても、 坪いくらの商品とさえなっている。

  人類は長い歴史の中で、この土地を奪い合うために戦い続けてきた。むろん、土地を持つことが社会的地位を確保する ことでもあり、そしてなによりも生きんがためであったからだ。

  昔は、ひとにぎりの大地主に、たくさんの農民が組織され、土地の貸借が行われていた。しかし今日、戦後の農地改革 と、高度経済成長の時代を経て、土地の小規模所有農家の階層分化が極度に進み、農業をしない農地所有者をたくさん 作りだそうとしている。まさに時代は変わったものだ。受委託という言葉がさかんに使われているが、多くの小地主から、 専業農家が土地を借りる時代となったのである。

  「働かざるもの食うべからず」−昔から不労所得に対する戒めは道徳の基本であった。土地を耕し、守り続けてきた世 代から、農作業を知らない世代へと土地の所有が移って行く。そうした中で、これらの小地主が、不労所得の拡大を願 うことなく、労働に支えられて守り続けられた農地というものを、また、生命の糧を生みだしてくれる農地というもの を、真摯な態度で考えてみたいものだと思う。


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