「大地」という言葉のもつひびきは、“生命を育む豊かな自然の稔り”といった大きく、たくましいものだと思う。
この大地が「土地」になり、個人の所有物となったのはいつの頃からであろうか。そして最近では農村においても、
坪いくらの商品とさえなっている。
人類は長い歴史の中で、この土地を奪い合うために戦い続けてきた。むろん、土地を持つことが社会的地位を確保する
ことでもあり、そしてなによりも生きんがためであったからだ。
昔は、ひとにぎりの大地主に、たくさんの農民が組織され、土地の貸借が行われていた。しかし今日、戦後の農地改革
と、高度経済成長の時代を経て、土地の小規模所有農家の階層分化が極度に進み、農業をしない農地所有者をたくさん
作りだそうとしている。まさに時代は変わったものだ。受委託という言葉がさかんに使われているが、多くの小地主から、
専業農家が土地を借りる時代となったのである。
「働かざるもの食うべからず」−昔から不労所得に対する戒めは道徳の基本であった。土地を耕し、守り続けてきた世
代から、農作業を知らない世代へと土地の所有が移って行く。そうした中で、これらの小地主が、不労所得の拡大を願
うことなく、労働に支えられて守り続けられた農地というものを、また、生命の糧を生みだしてくれる農地というもの
を、真摯な態度で考えてみたいものだと思う。