1981年 5月
将棋とチェス

  日本古来の知的ゲームに「将棋」がある。これと同じように西洋には「チェス」というものがある。どちらも「王」「KING」を取り合うゲームだ。 このゲームはその昔、インドに発祥したと言われている。おそらく古代インダス文明の中に生まれ、西に渡ってチェスとなり、東に渡って将棋となったものであろう。

  したがって、この将棋とチェスとは非常に似かよったゲームだが、基本的に違った点がある。将棋の場合には、敵の駒を取れば、それを我が先兵として盤上に打ち使うことができる。 しかし、チェスの場合には、取った駒、取られた駒は永久に死駒であり、勝負が終わるまで使うことができないということだ。

  二千年近い人類の歴史はさまざまな「戦争」の歴史であった。そして西洋における戦いは民族と民族の戦いであり、日本においてのそれは、同じ民族同志の戦いであったと思う。 最近、日本人論が一種のブームで、多くの論者が一様に日本人の同質性、単一民族という点を指摘している。西洋における、いな、世界のかかえている民族問題は日本人の理解の域を越えている場合が多い。

  「戦い」の歴史においては特に、捕虜の扱い方、拷問のやり方に顕著な違いがある。日本では「ねがえり」を促すが、西洋では、基本的に殺すのである。 こういう民族の歴史の違いが、将棋とチェスの違いを作ったのだろうと思う。明治以来、急加速で西洋化を進めてきたと言われる日本だが、むしろ独特の日本を、日本人として考えてみたいものだ。


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