1980年 7月
PTAの草取り

  「精農は草を見ずして草を取り、中農は草を見て草を取る。そして、惰農は草を見ても草を取らない。」これは農村に伝わるひとつの「ことわざ」だ。 昔から、一生懸命に草を取ることが農民の生きる道であった。草を見ることもなく草を取ることはできるはずもないが、それくらい草を取ることに神経を使わなければ、精農といわれるような篤農家にはなれなかったということだろう。

  最近は除草剤というものが急激な発展をとげ、あるいは農機具の普及によって、牛馬を飼うこともなくなり、草刈りや草取りというものがあまり見られなくなってしまったようだ。

  つい先日、こんな光景が私の目に飛び込んで来た。それは小学校の校庭で、PTAの人々が草取りをしているところであった。そしてその校庭では、子供達が野球やドッチボールをして遊んでいるのである。 ひと昔前ならば、つまり草を取っている親達が子供の時代には、決してこんな光景を見ることは出来なかったろう。子供達自らが、先生の指導のもとに草を取り、校庭の清掃をしていたに違いない。

  今の子供達が大きくなって、将来農民になるという人は極く少数だと思う。しかし、一人の人間として、彼らが成長し、巣立ってゆくために、PTAのしていることは真の援助だろうかと考えさせられる。 草を見ずして草を取ることの努力がどれほどのものか。草を見てもその意味に気づかず、惰農のような日々を送っていないか。まず親達が思い起し、子供達にも伝えたいものだと思う。


戻 る