1980年 5月
豊かさと石油

  イランからの石油が途絶えた。輸入量全体の約十%をイランに依存している日本にとって、そして体全体がどっぷりと石油に漬っている日本経済にとって、この事件は石油パニック以来の出来事として記憶に新しい。 ただ、以前のようなさわぎにならなかったことは救いである。 歴史の教訓を生かし、一定の備蓄を準備していたことも自信につながっていようし、何よりも国民の自覚がものを言ったに違いない。

  日本は豊かな国である。日本は高度経済成長によって豊かになった。とは良く言われることである。もちろん、この“豊か”の意味は物が豊富にあるということだろう。極論すれば、日本は石油で「豊か」になったということだ。最近日本論ブームで、いろいろな外国人が「日本」のことを書いているが、 それはさておき、外国の人々が日本を語るとき、よく「日本は物の豊かな国である。」という言い方に出会うことが多い。

  石油を土台に、まっしぐらに経済成長の道を歩んできた日本だが、産油国の資源ナショナリズムの台頭の前にとまどい、世はまさに不確実性の時代となった。

  単一民族であり勤勉性に富み、エコーミックアニマルといわれてきた日本人。圧倒的な経済成長を勝ちとってきた日本。しかし今、石油の消費が問題視される時代となり、「いかに石油を確保するか。」と同時に「人間にとって豊かさとは何か。」ということを問いなおす時代でもあるようだ。


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