天災は忘れたころにやってくる。平成27年9月、茨城県常総市を襲った鬼怒川の若宮戸地区越水と三坂地区堤防決壊による洪水は、市の半分 (小貝川と鬼怒川に囲まれた水田地帯)を飲み込んだ。避難者は9月11日に6,223名に上る大災害となった。 常総市は平成の大合併で、旧水海道市と結城郡石下町が合併して誕生したのものだが、もともと水海道という名前が 物語っているように、非常に地盤の低い土地柄であり、ちょっと大雨に見舞われると、そこいら中が水の海の道となってしまうような地域なのである。 今回、洪水の道となってしまった三坂新田地区や沖新田地区では、度重なる水害に備えるため、近年まで個々の農家に「舟」があったという。また、「味噌」というのは 大変重要な食材で、各家々で自家生産していたが、洪水のおり味噌樽を運び出すことが出来ないので、味噌樽をロープでくくり家の梁に吊るせるようにしておき、 水が増えるごとにロープを引き上げ味噌樽を守ったという言い伝えがあるほどである。
前回三坂地区で鬼怒川が決壊したのは70年以上も前のことである。決壊場所は今回より下流に2Kmほど下ったところで、やはり「新田」と名の付く地域を洪水が 飲み込んだ。しかし時が過ぎ、人生一巡りの還暦(60年)という時間をも超えた過去のことは、だんだん忘れていくものだ。私も前回のことは子供のころすでに亡くなった祖母に聞いた記憶がある。 むろん生まれてもいないわけだから、今回のような強烈な実体験とは程遠い記憶である。これからも数十年が過ぎ、被災した人々が少なくなり、これから生まれた人々が 多くなれば、被災の実感というのは薄れていくに違いない。
ハザードマップという地図がある。一定の災害を想定し、避難場所等を確認するためのものである。常総市でもむろん今回の災害のまえに、このハザードマップが各家庭に配らていた。 予想される災害には地震など様々な災害があるが、地盤の低い市東川の水田地帯では、鬼怒川の決壊による洪水災害の予想が大きなテーマであったことは当然のことだ。 さてこのハザードマップ、鬼怒川の決壊による洪水災害を青色の濃淡で示し見事に予想していた。今回の洪水災害はこのハザードマップの通りとなってしまったのである。 まさに忘れたころにやってきた災害だが、このことを「想定外」ということは出来ないだろう。